写真が語り、AIが詩にする山旅(6)


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3月4日 福山

見おろすもの、見あげるもの
 ― 山の掌にて

山の掌に そっと置かれた
石の仏と 落ちた花びら
誰の手が あのハートを描いたのか
それは 声なき祈りのかたち
あるいは 時を超えた返歌か

見あげると 仏の顔は
風に削られ 苔に包まれ
それでもなお やさしく笑う
人の願いが 幾重にも重なり
石に 深く 刻まれている

見おろせば 町がひらける
田畑と屋根と 遠い煙
ここに立つと すべてが小さく
けれど すべてが愛おしい
あの暮らしも この祈りも

山は 何も語らない
けれど すべてを抱いている
火の記憶も 涙の跡も
椿の花の 落ちる音さえ
そっと 掌に受けとめて

私はただ 立ちつくす
見あげるものと 見おろすものの間で
過去と今が 交わる場所に
心の奥の祈りを
そっと 置いてきた
山掌(さんしょう)

山掌藏幽佛
花飛結願心
不知誰所寄
風過尚餘馨

読み下し文:
やまのてに ゆうぶつをかくし  
はなとびて ねがいをむすぶこころ  
たれのよすところかをしらず  
かぜすぎて なおかおりのこる

訳:  
山の掌に ひそやかに仏を抱き
舞い落ちた花が 願いの心を結ぶ
誰の想いかは知らねども
風が過ぎても 香りは残る

3月7日 佐伯天神山

見張り所に立つ者たち

岩と根が絡む急斜面を登り
たどり着く 小さな平地
風が枝を鳴らし 川が遠く光る
ここが 見張り所
空と水と 敵の影を見張る場所

朝の番は 陽を背に
夜の番は 星を数える
火を絶やさぬように
声を潜めて 耳を澄ます

「何もない日が 一番いい」
そう言って笑ったあいつは
昨日 交代の刻に戻らなかった
今朝 その名を呼ぶ者は いない

それでも 見張りは続く
川の流れは止まらず
山の影は 時を告げる
誰かが見ている限り
この城は まだ落ちていない

命じられたのか 志したのか
それぞれに 理由は違えど
ここに立つ者は 皆知っている
この風の冷たさと
その向こうにある ぬくもりを
望川臺上(ぼうせんだいじょう)

斜路登岩隅
孤臺對遠川
風聲傳警意
火影照寒顔

書き下し文:  
斜路(しゃろ)岩隅(がんぐ)に登り
孤臺(こだい)遠川(えんせん)に対す
風聲(ふうせい)警意(けいい)を伝え
火影(かえい)寒顔(かんがん)を照らす

訳:  
斜めの道を登り 岩陰の端に立てば
孤高の見張り台から 遠くの川を望む
風の音が 警戒の気配を運び
火の明かりが 冷えた顔を照らす

3月11日 犬墓山

岩屋に眠る声

犬墓山の尾根に立つと
風がひとつ
昔の名を呼んだ
山の向こうに
瀬戸の海が淡く揺れ
その光が
今日の道の始まりを照らしていた

鬼の差しあげ岩は
空を支えるように
黙って立っていた
その下をくぐると
岩の奥から
遠い時代の息づかいが
かすかに響いた

岩屋寺の門は
静かに開いたまま
迎える者も
送り出す者もいない
ただ
山の影だけが
古い祈りを抱いていた

そして
白いスモモの花が咲いていた
枝先に
ひっそりと
誰に見せるでもなく
その一輪が
今日歩いたすべてを
そっと結んでくれた
岩屋春行
(がんおく しゅんこう)

登嶺看瀬影
穿岩聴古声
寺門空自掩
李花和風明

読み下し文:
嶺(みね)に登りて 瀬影(せえい)を見る
岩を穿(うが)ちて 古声(こせい)を聴く
じもん空しくして おのずから掩(と)ざす
李花(りか) 風に和して明(あき)らかなり

訳(雰囲気を大切に):
峰に登れば瀬戸の海影が淡く揺れ、
岩をくぐれば、昔の声がかすかに響く。
寺の門は人影なく閉ざされているが、
スモモの花だけが風とともに明るく咲いている。

3月16日 王子ケ岳

三角の島、笑う岩

登山口 まだ眠る町を背に
一歩ごと 山は目を覚ます
木々の隙間から ちらりと覗く
三角おにぎり 大槌島が笑ってる

岩のあいだから また顔を出す
「よく来たね」と 風がささやく
ニコニコ岩も つられてほころび
山はそっと 背中を押してくれる

やがて山頂 空が近づく
山は静かに 息をひそめ
「ここまで来たね」と 包み込むように
私を迎え入れてくれた

ニコニコ岩の先に ぽつりと浮かぶ
三角の島 まるで山の想い
あの形を いくつの季節が撫でたのか
山もまた その時を知っている

私は今 山の胸に立ち
海と空と 島のかたちを胸に
山のまなざしを借りながら
新しい季節の 風を吸い込む
山笑迎新氣
(さん えみて しんきをむかう)

山笑迎朝客
巖間見島形
登高風色好
心洗換春光

読み下し:
山笑(さんえ)して朝の客を迎え、
巖間(がんかん)に島の形を見る。
高きに登れば風色(ふうしょく)よく、
心を洗いて春光(しゅんこう)を換う。

訳:  
笑う山が朝の登山者を迎え、
岩のあいだから三角の島が顔を出す。
高みに立てば風は清らかに吹き、
心は洗われ、新たな春の光に染まる。

3月20日 和気富士〜竜王山

春のほぐるる山路

あの日と同じ 山の背を
また今日も ひとり歩く

岩の影に 咲き出す花
名を知らずとも 心がほどける

ヒサカキの白 ミツバツツジの紅
小さき灯りが 道を照らす

まだ芽吹かぬ 梢の先に
ひそやかな 光の気配

風が運ぶ 見えぬ約束
やがて 緑が 空を満たすだろう

春は 声をあげずに来る
気づく者の 足もとから
春望山行(しゅんぼうさんこう)

山路花微笑
年年彩引行
未萌千樹緑
心在未來情

読み下し:  
山路(さんろ) 花 微笑(ほほえ)み
ねんねん彩(いろ) われをひきてゆく
いまだ萌えざる 千樹(せんじゅ)の緑
心みらいの情(じょう)に在(あ)り

訳:  
山路に咲く花が ほのかに微笑み
年ごとに現れる彩りが 私を導いてゆく
まだ芽吹かぬ 千の木々の緑
心はすでに その未来の色に寄り添っている

3月29日 実僧坊山

探花の径

霧氷の記憶を 足もとに残し
私はまた あの山を登る

まだか まだかと 目を凝らし
枝の先に 白を探す

遅すぎたかと ため息まじりに
ふと あの斜面に 光るもの

ああ いたのか
今年も 君はここにいた
山行見芳華(さんこうして ほうかをみる)

山行尋舊處
花繁未盡華
回首枝頭上
微香滿我車

読み下し:  
山行して旧処を尋ね
花は繁(しげ)くして 未だ華(はな)尽きず
首を回らせば 枝頭の上
微香(びこう) 我が車(くるま)に満つ

訳:
なじみの場所を訪ねて山を歩けば
花はなお盛りで まだ咲き誇っていた
ふと振り返ると 枝の先に揺れる白
そのかすかな香りが 私の背を包んだ