再び、山は息をする 風に倒れた日のことを まだ根の奥で覚えながら それでもヒノキは迷わず 空へ向かう道を選んでいる 植えられた苗は 雨の粒をひとつずつ受け取り 細い幹をそっと太らせ 森の影をつくる者となった 人の足音は少なく 風ばかりが道を渡る けれどヒノキらは知っている 静けさこそが山の薬であることを
短歌 風倒の 跡を抱きつつ 伸びゆける ひのき若木の 影のあたたかさ
青き葉に灯る赤の声 青き葉の まだ夏を離れぬ匂いの中で 赤い実だけが ひと足早く 季節の扉を叩いていた 山の道は 緑の深さを増しながら 風の若さを そっと抱きしめている その奥で 赤は静かに息をしていた 遠くの稜線は 幾重にも重なり 時間の層をひらく 青と赤が すれ違うように 今日の星山を照らしていた 夕の気配が 山の影を長くすると 赤い実は ひと粒の灯のように 未来の季節を そっと呼び寄せていた
短歌 夏の葉に 早き紅あり 揺れもせず 未来の季節 呼ぶかのごとし
湿原の白い星 湿原の草のあいだから 白い星が ひとつ、またひとつ 静かに立ち上がる 花弁の黒点は 夜の名残のようで 風が触れるたび かすかな光を揺らす 湿原のひかりは いつのまにか 白の方へ そっと傾いていた
短歌 白き花 星のかたちを そっともち 黒点ひらき 光をたたえる
霧の稜線にひらく色 霧は 山の線を消しながら流れ、 世界は 白い息の中に沈んでいた。 その中で 薄紫の花が そっとひらき、 色だけが 静けさの底を照らした。 風が触れるたび、 花は 霧の重さを受け止めるように揺れた。
短歌 風の手に 揺られて咲ける その花は 静けさよりも 深いもの持つ
緑の深みにひとすじの道 緑の影が まだ浅いところで 道はそっと 森の入口を開いていた 踏み出す一歩が 静けさを揺らす 葉の重なりは 歩むほどに濃くなり 光は細く 影は長く 道は迷わず 奥へ奥へと続いていく 風のない森は 音を抱えたまま 沈黙していた その沈黙の中で ひとすじの道だけが 未来へ向かう気配を かすかに灯した 振り返れば 緑の深みが 歩いた時間を そっと包んでいた 細い道は ただ静かに 森の心を示していた/pre>
短歌 湿る土 踏めばやわらかく 息をする 緑の深みへ 細道のびゆく
森霧のひかり 朝の森に 霧のひかりが落ち 木々の影が 静かに息をする 差しこむ光は 枝の間をすべり 土の匂いを やわらかく照らす 歩むたび ひかりは揺れ 道の奥へ そっと導いていく 振り返れば ただ光の気配 今日の泉山を 静かに抱いていた
短歌 ひかりさす 霧のよろこび 舞いあがり 森の奥から 朝の声する